船狂ち爺さんの

「私の予科練記」第18回

アラカルト 続
罰直のいろいろ




海軍に入って、驚いたのは、罰直の種類の多さです。
入隊前に、軍隊は、厳しくしごかれて、練成が行はれることは、覚悟してきた積りで
あったが、なにせ、何だかんだと、理由付けがされて、次々と、罰直があるのには、
恐れおののいたり、すこし、幻滅を感じることもあった。

自分は、精一杯、精神誠意、体力の続く限り精励している積りが、気合が入っていな
い!!,とか、連帯責任による罰直を受けるのである。

股を半歩開け、歯をくいしばれ
これは、所謂アゴであり、15歳ぐらいの少年を、成年に達した大人の体格の教員
が、体を半身に開いて、腕を後ろに回した姿勢から、拳で、アゴを、力をこめて、殴
るのである。
この頃の、少年をそのような、殴り方をしたら、先ず、大怪我をするであろう。
気合とは、恐ろしいもので、時として、歯で、頬を傷つけて、血が出るが、大怪我を
するようなことは、なかった。

気合を入れる方も、拳が痛くなるし、それを、数十人ものを相手することは、それ
も、大変な苦行であったろう。

そのようなことで、直接大人数を、一人で殴る代わりに、同期生同士を、対面させ、
相互に、何発づつ殴れである。

このとき、手加減しているのが、見つかると、納得のいくまで、やり直しをやらされ
るので、多少、相手には、気の毒と思いながら、手加減はするものの、相当な力で
殴っていた。

前支え
腕立て伏せであり、腕屈伸を数十回、または、ゆっくりと、腕曲げ、伸ばせの号令で
屈伸をさせた後、腕立伏せの姿勢で、数十分にわたり、やらされ、へたり込みでもし
たら、こらー!!と、尻にバッターが飛んでくるといった具合で、堪えたへる罰直で
あった。

手旗十二原画・踵上げ・膝半屈の姿勢
これは、丁度万歳をした姿勢で、膝を半屈にして、踵をあげた姿勢で、数十分立たさ
れる罰直で、静かにやれるので、巡検後の、罰直に多かった。 これも、数分もする
と、体がふらついてくるので、ぐらぐらすると、一発くる。

ボーイングの急降下
これは、衣嚢棚の整頓が悪いとき、衣嚢を背負い、腕立て伏せををして、足を、衣嚢
棚の二段目にかけて、体を急降下の角度にして、腕の屈伸をさせられる。
時として、ニ人が、肩を組み、互いは、片手で腕立てをして体を支え、双発機になぞ
らえた、急降下罰直もあった。

鶯の谷渡り
寝台の、下を潜り、つぎの列の一段目、そして二段目と昇ったり潜ったりして、寝台
の列を片端から、鶯の谷渡りのごとく、渡り歩く競争をさせられた。

手箱の閉め忘れ
手箱の蓋が開いていたりしている時、朝の清掃の時間中に、口に白墨等を挟まれて、
大きくあけ、手には、手箱を捧げもって、立たされるといった罰直も会った。

説諭
罰直の前には、一通りの、説諭がある。
これが、堪えることが多かった。よくも、こんなに、因縁付けが出来るもんだと感心
させられる場面もあり、無理偏に無理といった感じの、説諭に感じることも多々あっ
た。
説諭だけで、体罰はないと言ったことは、多々在ったが、これが堪えた。

罰直は、いろいろ在ったが、思い出したら、またの機会に追記しましょう。


つづく


最終更新(1998/12/12)