船狂ち爺さんの

「私の予科練記」第12回

新兵教育  続(3)




課業整列は、08:00軍艦旗掲揚からスタートし、副直将校の達し事項が有った
後、課業始の
ラッパにより、各分隊予定の課業に入る為、隊列を組んで行動を開始する事になる。

座学は、各分隊兵舎へまたは、通信講堂へ、陸戦訓練(教練のこと)は、練兵場(滑空
訓練場にも使える広さがあった。)に向って分かれて行く。

今回は、通信教育について述べてみます。
通信には、手旗信号、発光信号、気流信号、無線電信、伝令と言った方法があるが、
手旗信号は、艦隊生活をする上で、海軍軍人の必須科目であり徹底的に仕込まれる。

発光信号、無線電信は、モールス符号を、発光・電信で送受して通信する方法で、将
来、操縦コース、偵察コース(航法・通信・偵察を担当する)に進む者も、必須技能で
あり、徹底的にしごかれて、身につけて行くことになる。

モールス符号の暗記が求められて,機会ある毎、四六時中その程度が試されることに
なる。
符号の、覚え方には、同調語も有ったが、それに頼るなと指導された、それは、仮
に、キに相当する同調語は、「聞いて報告」(−・−・・)である、発信する時は,短
符と長符の長さの割合が安定した間隔にしろ、一文字符号間の間合いは同じ長さの間
隔が要求されて正確性を記する為だと言われ、同調語での記憶の場合、受信の遅れが
出るし。発信にムラが出ると言われていた。

通信講堂では、電鍵に向い、一トンツー原姿、一トントンツーツー原姿といった具合
に、電鍵を正確に叩いて、綺麗な信号になるように、教育される。通信講堂は、各分
隊が使用するので、受信だけの訓練は、各分隊の兵舎の中で、拡声器を利用してなさ
れた。

通信術には、予科練生の誰もが、苦労をしていて、夫々が、エピソードを沢山持って
いる。
各分隊とも、練度を上げるため、色々と工夫し努力がなされていて、それは、それ
は、我々にとっては、夢にも出てくる難行苦行である。

食事時間後の僅かな休憩時間、温習の時間に拡声器から流れる、モールス信号を解読
させられる。時に、テストとして、受信紙の提出をして、その成績を競はされて,成
績の悪い者は、罰直が待っておる。

班全体の、成績がね他班より悪いと、これまた、罰直である、この場合は、大概、巡
検後に、その班だけ、通路に整列させられて、ながーいお説教と、体罰である。

通信速度は、最初の頃は、一分15文字程度の早さ、ついで、一分当たり50文字程
度まで進んだようであり。操縦コースで、80文字/分、偵察コースでは、100^
120文字/分ぐらいが要求されていたようである。

送信は、あまり、やる機会は無かったが、受信は、兵舎で出来るので、これは、日常
日課になって機会を捉えては、テスト受信の訓練がなされた。受信紙は、50文字の
原稿用紙で、送られてくるカタカナの文章は、乱数表でバラバラにされた、カナ文な
ので、検討をつけて、穴ぼこを埋めるといった芸当は、通用しないので、困った。


時として、平文で「コノツウシンガワカッタモノハエンピツヲオイテシズカニイスヲ
タッテ
ヨロシイオワリ」と言ったような、信号があり、判った者は、ホッとして立ちあが
る。多数
の者がわかると、分からない者は、判ったような顔をして、立ってごまかした。

我々も、一生懸命になって、習熟につとめたが、外の日課にも追いまくられるので
中々上達しなかった。

手旗信号も、習熟に相当の努力が拂はれた。別課課業時間に、手旗が主として取組ま
れ、そのほか、体育も在ったが、手旗信号の發受の訓練がなされた。

手旗信号は、モールス信号よりは、上達は早かった。


つづく


最終更新(1998/12/12)