船狂ち爺さんの

「私の予科練記」第11回

新兵教育  続(2)




総員起こしから、課業整列まで約2時間の時間があり、その間、寝具収め、朝体操整
列、食事準備、朝食、片付け等々と、日課は進むのであるが、その間、当番以外は、
幾分か自由な時間が取れるのであるが、新兵中は、僅かなね時間も一息就く間もなく
,課業を消化するのが精一杯、それに、班長から、それ、何が何だといって、指導指
示が出されるので、よほど手際良くやれるようにならないと、自分の身の回りの整理
とか、歯磨きさえままならないほど、きりきり舞の大忙しさが続く。

08:00の課業整列になるのであるが、本来ならば、東宝映画の予科練のシーンに
出てくる、真白い事業服に身を固め颯爽として、整列するところであるが、戦局悪
化、物資欠乏のこの頃の我々は、陸戦服の略装での整列となる。

次ぎに、海軍での、報告の仕来たりについて、述べます。
陸式では、報告する者が、報告を受ける上官に、敬礼をして、直立不動で報告をし
て、最後に又、敬礼をして終る。
ところが、海軍では、敬礼をした手を下ろさないで、敬礼の姿勢のまま、報告事項を
のべ、報告がおわり、良しとの返答を受けて、敬礼の手をおろして、報告は終るので
ある。
時として、長い報告事項の場合は、敬礼のまま、報告をする事に戸惑いが出る場合も
あり、最初の頃は、中々馴れないで困った。

号令
「かかれ」「開け」この2つの号令ほど、簡潔なものはない。
かかれは、次ぎの課業・作業・行動に移れと言うことで、全て、この号令で団体行
動が開始される。令が出されたらまごまごしないで、間髪を入れず初動をこす仕組
み。
ひらけは、小休止や、課業の終了から、団体を解散させる時につかわれ、かかれと開
けは、あらゆる場面で使用される号令。

作業員整列
隊内では、色々な雑務が必要になることは、娑婆の団地、通り会などと同じで、毎日
のように、副直将校より、例えば、「烹炊所の食料運搬に各分隊○名○○:○○に何
処どこに整列と」言った命令が概ね朝食の時間に、拡声器をとおして伝達される。作
業の内容は、色々で難儀なものから、楽なもの、苦しいもの等などあって、また、時
間も、課業中の時間中で別行動をとる場合もあるが、大方は、昼休み、別課課業時
間、また、夕方、食事時間までの時間帯が多い。
分隊では、指定された作業員を指名する為、当直教員が我々に作業員何名整列と号令
をかける。このとき、まごまごして譲り合ったり、誰かが出るだろうなど思って間合
いを見たりしていると、さあ、大変「貴様らは、やる気が無いのか」ときて、総員整
列の罰直につながる。
使役に出ることは、僅かな自分が自由になる暇を潰されのであるから、大体が嫌はれ
るのである。
しかし、使役先で余得に預かることも有ったり、分隊の残りの者より楽な作業であっ
たりで、我々の中には、要領の良い者は、その辺の呼吸を会得して、表面は、やる気
満々の姿勢を見せ、選択して作業員に出るようにしている者も出てくる。
教員は、そのような態度は、先刻お見通しで、総員罰直で、ネチネチと搾られること
になったことが、何回もあった。


つづく


最終更新(1998/12/12)